Frigidus Symmetria
Definitio V: Aequatio(方程式)
突如として大地震が起こり、潜水艇は岩に叩きつけられたのだった。
すぐに、コルプスはアクティオの状態を確かめた。
スクリューがちぎれたが、船体は大丈夫な様だ。
空気の循環装置も正常に動作していた。窒息の危険はしばらく無いだろう。
当座の安全を確かめると、ソナーで救援信号を発し、超音波は水中を同心円状に広がっていった。
アクティオはゆっくりと沈み続けていた。
コルプスは緊急浮上するため、バラスト投下ボタンを押した。
これで、浮上するはずだ。そう思い、コルプスは窓から外を見た。
一面、水だらけで下に向かっているのか上に向かっているのか、分からなかった。
アインシュタインの等価原理がコルプスの頭に浮かんだ。
仕方なく、水深計を見ると、依然として沈み続けていた。投下装置の故障で、一部のバラストは投下されなかったらしい。
「アクア。装置が故障して、バラストが投下できないんだ。故障箇所を探してくれ」
アクアがコルプスの元へ来たときにソナーが鳴った。
全てが水に囲まれた世界では、電磁波は減衰して通信には使えない。
水の振動によるソナーだけが唯一の通信手段だった。
水中の音速は空気中の四倍近くとはいえ、光速には到底及ばず、届くのに時間がかかりタイムラグがある。
「こちら救助隊。現在、大地震が発生して、直ちに救助には向かえない。早くても、そちらに向かうには7時間はかかる。すまない。健闘を祈る。」
アクアはその返答を聞き、まず酸素の残量を確認しにむかった。
多くのボタンの中に、黒いボタンと白いボタンが並んでいた。二つのボタンの上にテープが剥がれた跡があった。
おそらく、コルプスが忘れないように張ったラベルが剥がれたのだろう。
酸素の残量の確認は、黒いボタンでできたはずだ。
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